思考力

カフェでする非凡なこと

二人いる私の人生の師である一人の先生は、予備校の現代文の講師。浪人していた頃、その先生の授業の音声を録音したテープを、毎晩毎晩、まるでカセットテープが擦り切れるかの如く聴いて、眠りに入っていた。壁の薄い私の実家の隣の部屋へ師の声が漏れていて、浪人時代に情けないほど親に当たっていた自分を、母は、心底心配していた。90分ほど、夜中に誰かの話し声が聞こえてくる。当時、オウム真理教の地下鉄サリン事件が大きな惨事を引き起こしていた最中だったため、その不安も一層強かったに違いない。「マインドコントロール」という言葉が、冗談まじりに使われていた頃。とうとう我が子も、変な宗教団体の一員に加わってしまったのかもしれないと思っていたのかもしれない。

そんな、夜を繰り返していると、私の授業の最初の30分程度は、一語一句「暗記」できている状態になり、受験が終わる頃には、90分全てを暗記できていた。そう考えると、ほとんど「洗脳」のようなものだったのかもしれない。ただ、私の師は、常に「主体性」を持つことを熱弁し、自分の意思で学問を追求することを唱えていた方だったので、自分の考えそのものをすり替えてしまわれぬようにしていた。その丸暗記した講義は、2学期初講義に行われた、かつて東大が出題した問題で、「きけ わだつみのこえ」が課題の文章。小論文に近い問題だったため、師の「戦争」に対する、強い怒りが伝わってくる授業だった。

眠る前に、毎晩毎晩、同じ話を聴くことで、授業内容を丸暗記できるのだから、もしかすると、そのような寝る前の反復で、海馬から側頭葉へ向かう回路に繋がる脳の仕組みに何らかの連鎖反応が生じていて、眠る前の音声学習が「記憶」と強く関わっているのかもしれない。昔から、睡眠に対する問題を抱えていると、眠るのが怖くなって眠れなくなるという「負の連鎖」に陥ることになる。なんとも皮肉なことだ。快眠のためにするべきことを、知識として仕入れ、メラトニンの活性化や交感神経と副交感神経のシンクロ関係、短時間睡眠を続けることによる身体への悪影響など。「空腹がクスリ」という人もいれば、「睡眠こそクスリ」という人の意見もある。確かに、どちらも大切なのだが、最近の私の生活においては、両者のバランスが取れていないので、全く体内時計の時差が合わず、薬が効いていない状態だ。

「〇〇分間で眠れるBGM」を試しても、「〇〇分」をオーバーしている状態。だから、ここ数日は、YouTubeにアップロードしている、この自分のブログの音声動画を聞き流しながら眠りについたり、世間で言われている「成功者」の自己啓発的な演説などを聴いて眠っている。案外、悪くないので、しばらくこれを続けていこうかと思っている。かつて、90分間ある自分の私の授業を全て丸暗記できたのだから、ポジティブな話や、自分のブログで書ききれなかった部分を、YouTubeで補いながら音声化している音を「子守唄」にするのも悪くない。「睡眠の質」がどうなるのかは差し引いた状態で、早く寝落ちできるのならば、リラックス音楽より、自分の話でも誰かの話でもいいから、自分にとって「ありがたいお話」を聴いてい夢の世界へ入っていこう。

世間で言われている「成功者」の人生の軌跡や、考え方、物事を視る切り口などは、とても奇抜で斬新である。もちろん、多少盛って話をしていたり、多少の矛盾点はあるのだが、深くて強い説得力がある。「ポジティブに物事を考える」という発想そのもののマイナスや、世の中を変化させてチャンスを掴むために必要なこと、そして何よりも、困難に喘ぎ苦しんでも、必ず浮き上がる時がくるし、そんな状態から成果を出すまでは、圧倒的な行動力が伴うのだということ。やはり、ズバ抜けた人間になるためには、凡人と同調することに“NO”と言い続け、古ぼけた古屋の中で、雨の中を避けながら独りで最強の人生の設計図を書く意思が不可欠なのだ。

一見、普通に見えても、実は深みのある人が、現実的に存在する。別に、映画やドラマの世界だけではない。過去に莫大な借金を作っても、それを糧に成長できた人や、強いバッシングを受けても、何も感じないほど強い精神力をキープしてきた人。ただ、そのような人に、限りなく共通することは、世間で「これが最強」だと言われているような策をとらず、日々の生活の中で、まるでカフェで作業をするような感覚になるまで、自分の挑戦を習慣化させ、ふとしたきっかけで、大きな成果となって現れたチャンスを、確実に掴んでいる。

過去に危害を加えた人々の恨み辛みを列挙した闇アカウントで、ネガティブなツイートする時間なんて作っていない。そして、そんなツイートを見ているヒマもない。まして、そのような負の伝染力の強いツイートからは、全速力で逃げる。やがて、結果として「チャンス」を掴んだときに、足を引っ張ってきたニンゲンたちに「サヨナラ」を言えたことについて、心の底からの深い言葉で、今までの過程を語れるようになる。そんな人が、大きな偉業を成し遂げられるようだ。だから、私も、非凡な人間になるために、非凡な努力を習慣化し、やがて凡人と差が開いた結果を語れるような人材になりたいと思う。

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