思考力

親指が裂いたモノ

首の根本から、斜め上に向かって親指を素早く動かし、私がかつて勤務していた予備校の社長が言った。「死ぬぞ」。これには、前後関係があり、私が、授業一本のみで生計を立てていき、それ以外の雑務はしたく無いと言った時のことだった。社長は、君のような中途半端な実力を持っている講師は、足腰が立たなくなる40代で、大抵現実を見る。だから、悪いことは言わないから、うちの正社員になりなさいという話だった。

それを断って、その後も、塾や予備校の世界にダラダラと残り続け、気づけば40代半ば。気づけば「ナマポ」。とんでもない的中率である。私は、業界をなめていたどころか、人生という大きな世界を甘く見ていた。今朝、一年ほど前に他界した母の夢を見た。母は、優しく私の今の現状を知り、経済的援助ならいつでもすると言ってくれた。ただ、それは寝てみる夢であり、母は、もうこの世には存在していない。

仮に、自分の授業一本で生活できるだけの実力があったとしても、今の教育産業というのは、カリスマ講師でさえ生きていくのが厳しい状態。少子化の加速度が、あまりにも早く、こんなにも大手の予備校が悲鳴をあげるとは思ってもみなかった。まさか、YouTubeで、無料で授業を閲覧できるシステムが誕生するなんて、私が前述の予備校の社長に言われたときに、お互い予想だにしない時代の流れであったのだ。もはや、実教室で多くの受験生を「三密」にして授業をするなどというとんでもない危険行為を実践するなどということは、不可能である。

まさか、コロナなる感染症が、ここまで時代の変化をもたらせるとは、世界中の誰もが予想だにしなかったことだ。ただ、私のような履歴書が傷だらけの人間を雇ってくれる会社など、どんどん消滅している。これだけは間違いのないことだと言えよう。

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