思考力

絵になる・止まる

何を持って順位をつけたのかわからないが、私は地区で「ナンバー2」のゴールキーパーだった。地区で一番強かったサッカーチームのキーパーの次。自惚れになってしまうのだが、私は、自分でもよく分かっていない才能があるようで、ゴールキーパーに関しての才能は、小学生の時に一気に開花した。決して点を取ることはできないながらも、一人だけユニフォームが違う、一人だけ「手」を使っても許されるポジション。もともと目立ちたがり屋という性格も相まって、自分には、少しは名前を売れるだけの実力があった。特に、一対一の場面では決して負けない。

全てのバックが抜かれ、怒涛の勢いで、相手のフォワードが近づいて来る。だが、それを決して許さない。向かってくる強いベクトルを完全に止める。その時に、一瞬ではあるのだが、完全に「絵」になって止まるモーメントがある。一瞬。ほんの一瞬なのだが、くっきりと鮮明に自分の「眼」に映し出される。その輪郭が視えたら、私は完全に相手の球を掴んでいる。弾くのではなく、完全に胸で押さえている。

呼吸が合う。ぴったりと。完全に一致する。相手の呼吸と波長が合う。相手が、こちらの背の「箱」めがけて突進してくる時に、相手の呼吸と自分の呼吸が合う。相手が、波長を狂わせようとしても完全に一致する。乱さない。接触する時には「音」が完全に消える。次の瞬間には、振動して回転している球が、胸の中で収まっている。PKの時も同じ。呼吸が合う。蹴り出される球と相手の身体全体が視える。それと同時に、音が消える。真っ白になる前に「絵」になる。球は、自分のゴールから外れている。

初速が違う。短距離走では絶対に負けない。相手との距離を一気に縮めるためには、初速が物を言う。地面を蹴る力が違う。相手の力よりも圧倒的に強いことが分かる。体勢が低い。瞬発力が高い。自分でも全く解らないのだが、分かる。「絵」になる。ゴールが鮮明に視える。とまる。一瞬止まって静かになる。音が消える。白くなる。なぜか消えている。解らない。しかし「絵」になっている。意識していないのだが、視えてしまう。完全に感覚的な事なので、文字にすることができないのだが、これは「第六感」というゾーンなのだろうか。「絵」になる。特に、波に乗っているときに、自分の目の前に水の壁ができている。この一瞬ともいえない、世界からスパッと切れた時間。エクスタシーに非常に近い感覚なのだが。この経験を伝えるには、私の語彙力では到底かなわない。ただ、とまって視える。「絵」になる。

私は、音を「視る」ことができる。それを身体で表現することができる。気の違った者の戯言だと思われるのかもしれないが、これは表現できる。オーケストラで唯一、「音」を出さないパート。指揮者として、自分は「音」を視せることができる。いつの日か、みなさんに魅せてあげたいと思っている。

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