最近の過食傾向の自分の欲望を抑えるため、腹が減ったらリンゴを食べられるだけ食べ続けることにした。リンゴは、歯応えがあるので、空腹感を紛らわせることができるし、口の中の清涼感も出してくれる。「一日一つの林檎が医者を遠ざける」という格言が英語には存在するが、まさにその通りで、お通じの調子がとても良くなり、その回数も倍増といったところ。まさに、「快腸」だ。スーパーのリンゴは、一袋6個で700円程度だから、地味に出費としては気になるところだが、訳の分からぬカロリーまみれのスナックを嚙るよりも、よっぽどマシである。
ただ、昨晩は寝付きが悪かったこともあり、リンゴでは空腹感が得られないというか、脂っこい物への渇望が強くなり、眠剤でフラフラする足取りの中、コンビニへ行ってギトギトのハンバーグ弁当とマヨネーズチャーシューおにぎりを買い、貪り食って夢の中へ入っていった。白いご飯というのは、ドラッグよりも依存性が強いという研究データ結果が出ているので、これに抗いながら生活していくのは、とても難しい。リンゴに置き換えて凌ぐのも、まだまだ時間がかかってしまうのかも知れない。
昨日は、ひとりカラオケに行って、時間を潰した。つい先日行ったばかりなのだが、なかなか体調が優れなく、部屋にこもっていては精神的にもよろしくないと思い、歌う決意をしたのだ。ひとりカラオケであれば、特段、自分の選曲を誰かを気にして歌う必要もないし、歌いたくなかったら、目を閉じてウトウトしていれば良いだけの話なので、たとえ一人であれ、とても気楽にボックス内で過ごすことができるのだ。何より、腹式呼吸なので、大腸が刺激されるためか、何回も便意を催し、トイレに行った。汚い話だと思われると嫌なのだが、理想的な便がたくさん出るのだ。
選曲中に、隣の部屋から漏れる歌声が気になった。部屋の壁が薄いせいか、それとも二人でデュエットしているせいか、黄色い声音が響いてくる。放課後の時間帯なので、学校が終わってから、カラオケでも行こうというノリになったのであろう女の子二人の声が漏れてきていた。酔っ払ってベロベロになったOLのような歌い方で、ケラケラと笑いながら大はしゃぎ。もちろん、こちらが歌っているときには、歌声が聞こえることはないので、私が歌うときの邪魔にはなっていない。ただ、そこで気になることがあった。
仮に、その子たちが高校生だったとして、私が高校生の時に、同じノリで音楽を楽しんでいたのだろうかと考えてみた。もちろん楽しければ何の問題もないし、その子たちを否定するような立場でもない。ただ、漏れてくる歌声の中に、高校生あたりの時の自分と照らせ合わせてしまうという余計な考えがめぐりめくことになってしまった。
私が高校生の頃は、お気に入りの歌手のCDの発売日が来るのを首を長くして待ち、手に入ったCDケースの裏に入っている歌詞カードを見つめながら、小声で必死に反復して歌を歌っていた。もちろん、YouTubeとか、その他の音楽配信サービスなどは存在していない時代なのだから、一曲に集中する気持ちは強くなり、自分の現状と歌詞がぴったり重なるような歌なのであれば、それは「宝物」を見つけたようなものだった。そのような曲には、やはり強い想い入れが含まれることになるので、この年になって改めて歌っていても、当時の記憶がグイグイと押しつけられるように脳裏に浮かび上がってくる。感動するためには、面倒なことであっても「過程」を踏まなければならないのかも知れない。
隣からは、相変わらずノリノリで楽しげな歌声が漏れてくる。大笑いしながら、やはり大盛り上がりだ。もちろん、大前提として、カラオケというのは、そのように大ハシャギして楽しむ場所なのだろうが、最近の若い人たちにとって、自分の魂を救い上げてくれるような曲に出会う機会というのは、ずいぶん減ってしまったのではないだろうかと、要らぬ取り越し苦労をしてしまった。YouTubeで「２倍速」で聞き流されてしまう数多くの曲。AIにオススメされた曲に気持ちが持っていかれてしまい、最後まで聴かずに次の曲に意識が飛んでしまっている。そこには、何か大切な楽しみを削り取られた、表面的な「カンドウ」しか浮き上がってこない乾燥した音しか浮遊していないような気がする。
先日行ったカラオケで、少し歌っただけで強く涙腺が刺激されてしまい、それ以上声が出なくなってしまうほど涙を流してしまった。次の曲でも同じように声が出せないほど滴り落ちる涙があった。みんなでワイワイガヤガヤ歌うカラオケも楽しい。自分だって若い頃、そんな経験は何度もしてきた。そして、昨日のように、少し引いた場所から自分の今のカラオケに対する感覚と、曲に対する意識の持ち方の変遷を考えたときに、やはり自分の心の器に変化が加わったのだという感覚を得た。これこそが、歳を重ねていくということになるのかも知れない。