思考力

The Final Lesson

 

昨年度の校舎で、英語救済措置講座を任された。とにかく英語ができない生徒を集めてオプションの授業をしてほしいという依頼だった。テキストは何を使ってもいいし、授業時間も80分に拡大してもいいという。テキスト作りには自信があったので、全て自分で打ち込んだものを使用することにした。毎回の授業で使用するプリントは、1人につき平均15枚。コピー機の渋滞を避けるためのタイミングも大変だった。初回の授業で、助動詞“can”の品詞を尋ねると、「前置詞」と答える生徒。その「前置詞」の存在を知らない生徒。正直、不安が募っていったが、テキストを作るのだけは楽しかったし、それを受け取ってくれる生徒たちの笑顔も嬉しい光景だった。

毎回の授業では、「真に美しいことは何か」をテーマに雑談をしていた。この話は、長くなるので、今は割愛するとして、特に美しかった2人の生徒を紹介しよう。

孤独は、自分を強くする。きっと正しいはずだ。

まず一人目は、毎回の授業を一人で参加する女子生徒。塾だけでなく、いろいろな所では、仲良しグループや、派閥ができる。特に、女子生徒同士の繋がりは強い気がする。そんな中、毎回の授業を一人で受け、授業中の小テストをほぼ満点の状態でクリアし、授業が終わると、スタスタと帰って行く。もう一人は、全く英語ができない男子生徒。とにかくできない。ついさっき解説した英語の英作文が書けない。でも、黙々と授業を受けている。この生徒も一人で授業を受けて帰って行く。

最終的に、最初の女の子は、1つ上のクラスへ、もう一人の男の子は、英語力はほとんど上がらなかった。ただ、ここで二人に共通することといえば、「ひとり」で授業を受けて、「ひとり」で帰って行くということだ。後々、講座の人数が減っていき、その講座の中でも仲良しの輪ができたのだが、ひとりでも胸を張って悠然と目的を果たす姿勢は、真に美しかった。入試に限らず、何かを達成するときには、自分の経験と力しかない。それなのに、誰かと一緒でないと不安。ケータイ、スマホ、SNSなどの「電波」とつながっていないと不安。前述の二人の生徒と比較して、どちらが美しくて、どちらが強いハートを持っているのかは、すぐにわかる。

気づけば、このテキストも「あとがき」を書く段階になった。机に山積みになった、莫大なテキストをリビングに持ってきて、iPadとiPhoneと分厚い英語の本を見て、テキストを創り上げていく。「普通の人」ならページすらめくる気もしないような、無味乾燥な英語の解説書を、穴のあくほど見つめていた。それはそれは幸せだった。実は、幸せは、どんな人でも簡単に手に入る。

単語学習をする時に、大きく分類すると、3種類に分かれる。自分で単語集を買って独力でやる人。このタイプは、挫折しやすい。学校や塾の小テストで暗記する人。これはスタンダードタイプ。最後に、単語単独講座を受講する人。このタイプは、かなりのマニア。ただ、このタイプで大成功する人は、単語力を強化するためには、グズグズ言わないで、孤独を恐れず、ひとりでも頑張ることを知っている人なのだ。そういう人は、その都度その都度、目標を達成し、幸せになる。前述の二人は、幸せだったに違いない。もし、その去年の二人が、この講座に参加したら、また美しい姿勢で授業を受けてくれるはず。昨年の二人のような、熱意あふれる美しい人間が、今年も、再び現れてくれることを期待している。

You’re nothing more, nothing less than the beautiful Moon.

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