思考力

油を抑え込む

 

人は、してはいけないことを耐えていると、どうしても「ソレ」をしたくなってしまうのが、常というものだ。イタズラなどは、その典型的なものであり、理性として抑えなければならないことを抑えるときにも、同じようなことが起こる。悪口なども、ソレに当たるし、喜怒哀楽を刺激され、そこに「平穏」を保たなければならないケースも同じ。私は、「笑恐怖」とも言えるほど、笑ってはいけない場面で笑いを堪えなければならないことも多くあり、仏教高校だった自分にとって、座禅などの時には、こみ上げてくる笑いを抑え込むのは、必死であった。座禅中に笑ってしまえば、坊さんの持っている「キョウサク」という棒が、金属バットより重く肩にヒットし、次の日には見事に肩が腫れ上がっていることもあった。

大晦日の恒例の番組でも、「笑ってはいけない」という、まさに紅白の裏番組として、NHKの視聴率を「抑え込む」ための番組もあるようだが、まさに「ソレ」。もし、私の職業が「ニュースキャスター」で、深刻なニュースを読み上げているときに、記者会見に現れた首相が、軽く足をくじいたら、その後は、原稿を読むことが不可能になってしまうかもしれない。千葉にきて、「ツボる」という言葉を聞くようになったが、まさに「ソレ」だ。葬式などで、そのような症状になってしまう人がいるようだが、他人事ではない。

このコロナ禍で、本来なら家を出ずに自粛しているべき期間に、やってはいけないことをやっている人もいて、路上でマスクもしないで酒を飲みながら暴れ回っている人たちもいる。その引き金となったのは、酒類の提供の取締りを強化するといった、傍若無人極まりない無謀な大臣の酒類に対する政策発表であり、その大臣に対する辞任要求の声も上がっている。大臣の発言が認識共有されず、混乱の責任がどこにあるのか分からなくなってしまうような、首相の相次ぐ「撤回劇」。下敷きになっている国民の怒りも、怒りをどこへ向けたらイイのか分からない。まずは、国会議員の給料を無しにして、一律給付金の手配をしなければ、我々の怒りは収まらないはずだ。

南アフリカでは、前大統領収監への抗議が火種となって、暴動が相次ぎ、死亡者が多数出ている。コロナ以外での多数の死者が出るというのは、なんとも痛ましい事件だ。ハイチの大統領も同じ。ただ、このような無茶な暴動や暗殺であっても、コロナ対策の遅れが引き金になっていることもあるはずで、マスコミは、コロナとは別件の扱いで報道をするわけだから、世界がどんどん凶悪な方向へ向かっているという示唆をし、国民の不安を煽るような仕組みになっている。

とはいえ、考えなければならない現実的な問題もあるわけで、インドネシアで変異株が猛威をふるい、多くの死者が出ていることも事実であり、インドネシアから帰国する人の中には、日本人がいることも事実。仮に、マスコミのよる偏った側面であっても、死者数のデータがあることは歪められない。また、日本へ向かう機内で陽性者が出た、南アフリカのラグビーの選手たちが、鹿児島入りを見送っている。では、インドネシアから帰国してきた人たちを含め、陽性している人を乗せた機内にいた乗客全員は、ホテルのラウンジでリラックスして、そのまま空港から出てしまえば、ウィルスをばらまく可能性は濃厚だ。

もはや、ウィルスに感染している人たちを、2週間どこかで待機させ続けるというのは、乗客の予定や、乗客たちのホテルルームなどの関係を考えれば、容易なことではない。トレンドニュースの中にある「ネガティブ情報」を、片っ端から片付けて、「ポジティブ情報」だけ残したとしても、結局は、自分には全く関係のない、芸能人の結婚の話とか、どこかの会社の株が上がった程度の情報になってしまうであろう。そんな情報の対極にある、芸能人の不倫や、会社の倒産の話題の方が、よっぽど視聴回数を上げやすい。

素人のYouTuberであれ、自分の動画には編集を加えて、テロップを入れる。それは、もちろん視聴者の離脱を防ぐことが目的であるが、それと同じか、それ以上に、タイトルとサムネイルが重要になる。ここの部分を蔑ろにすれば、再生回数は、ガクンと下がる。だから、「結婚」「株価上昇」より、「離婚・不倫」「倒産・自己破産」などの方が、注目を得やすい。まさに、「他人の不幸は蜜の味」といったところだ。ただ、ネガティブ情報に意識が行ってしまうのは、人間が古代から受け継いでいる「本能」なので、そこを刺激するのは、別に反則ではない。

水際対策がやりにくい日本で開催されるオリンピック。続々と流れ込んでくる外国からの観光客。災難に油をぶちまける状態。この悲劇を乗り越える術は、もはや無くなってしまったと感じる。それならば、そんな悲劇を回避するのではなく、最小限のダメージでディフェンスすることを、常に戦略として考えておかなければならない。ここでもまた、私が嫌いな言葉である「自分の身を守りたいのであれば」という、かつてのパワハラ上司が言った台詞を付け加えておかなければならない。彼の言ったセリフは、私の心をえぐり取りつつ、私も遣いやすい言葉であることも、認めざるを得ないようだ。

 

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