思考力

種を撒く

英語講師をしていて常に意識していたことの一つは、「何を伝えないか」である。特に、英語学習の超初心者は、そもそもの知識がないばかりではなく、英語そのものに対する苦手意識を持っていたり、教わる人に対しての指導方法や考え方に沿って学習することに強い恐怖を抱いているケースも多々ある。ただ、どんな人間であっても「向上心」という心のあり方や、優れた状態を目指そうという「本能的な感情」は備わっており、自分の中に眠っているポテンシャルを引き上げ、その潜在能力を浄化し、たとえ無意識であったとしても、そのメソットを常に欲しているものだ。

 

そのような淡い期待感が、きっと実現化すると教え、今よりもずっと英語が好きになり、やがて「武器」にすることができる確信を抱かせられれば、間違いなく、私の指導ノウハウは正しかったと証明される。そのような喜ばしい経験を積み重ねられたので、今までの講師生活を続けられたのは間違いない。周囲から遅れをとってしまったと感じ、学習を放棄しそうになっている者に対し、革命を起こすキッカケを与えられれば、後の師弟関係は質の高い状態になり、その後の学習に「革命」が起こることさえある。確かに、先天的な学習能力の差があることは否めないが、指導者次第で、学習者のモチベーションを高めることは十分可能であり、モチベーションの引き上げ方を理解している指導者は、高度な知識をもつ指導者より希少価値が高い。

指揮者の役割というのは、オーケストラの楽曲、コーラスの声のクオリティーを上げることだ。ただ、実際のところ、指揮者がいなくても演奏そのものは完成する。しかし、指揮者が必要な大きな理由の一つは、その曲に「魂」を与える事だ。音楽の中に眠るサウンドを整え、それぞれのパートのブレを整え、それによって引き起こされる「霊気」を身体で表現する。独学で学習を進められる者と、そうではない者がいる。指揮者なしで演奏できるパーティーもあれば、そうでない集団もある。そう考えると、学習指導者と楽曲の指揮者は、ほぼほぼ同じ立ち位置と言える。

私の指導は、どちらかというと、中級者を上級レベルに引き上げる方に向いているようで、授業アンケートなどで、そのことが明らかになる。ただ、教育の本来の目的というのは、教師が教え子に対して、未学習の分野の知識を教授し、そレを運用するガイドを正確に示す事である。最新の受験情報や、過去問の分析、はたまた解答速報を提示して、それを解くための正確かつ効率的な受験問題のノウハウを教えるだけではない。基礎的な学習で足踏みをしている学習者の不安が消える方法を思索したり、スランプに陥っている者の危機からの救済法を、そのときの事態ごとに考え出す必要があるのだ。

 

様々な学生に対しての個々の指導に対する育成ポイントは、大きく「3つ」あると考えている。それを一つずつ公開していこう。まず、今の学習をする事で到達できる「次の世界」について魅力的に語ることだ。例えば、入試で言えば、理系文系を問わず、英語という科目は必須であり、大学に入学した後でも、英語は必修科目となること。また、その後の就職活動において、英語の資格取得をすることで有利になるということなど。このような学習の「必要性」を語ることで、学習へ前向きになる。

また、学習で得られた知識が、自分の資産とな利、後の人生で役立つことも教える。特に、過去の偉人の発明というのは、必ず「学習」を基に開発された新しいアイディアであり、そこから得られた知識によって、地位や名誉や財産だけではなく、何よりも自分の生き方の正しい方向性を掴み取ってきたことを示す。やがて、その考え方の仕組みを理解できることで、周囲に流されたり騙されたりすることがなく、決して奪われることがない「知的財産」という最強の報酬を得られることを知る。それを何度も繰り返すと、成功者だけこそが知っている、学習しない者の残酷な末路を学ぶことさえできる。

そして何よりも、指導者が今まで世に送り出していった教え子が、どのように苦しい困難に立ち向かい、それを打破していったのかという「過去の軌跡」を語ることだ。もちろん自分が今まで経験してきたハードルを乗り越えて得られた感想であってもいい。若い教師には、自分と教え子にある年齢差を活かした親近感のある過去の自分の人生を語ることができるだろうし、今まで多くの教え子を育ててきたベテランの教師には、様々な教え子と過ごして得られた人間模様と思い出を熱く語ることができる。そして、今、教えている次の時代を担う若者の学習回路を、正しく、正確に、そして速くする方法を、一方的にではなく、一丸となって考えるべきだ。

情熱こそ才能。そのように考えられる者だけが、若い芽を育てる資格がある。情熱や愛情がなければ、何も分からない。自分が分からないものを、教え子に指導するなどできるはずがない。改めて、自分の情熱を伝えなくたって、受け手は十分に指導者の熱意を真に受け止めている。これは、今までの英語講師としての人生の中で経験している。真心を込めた授業を繰り返し続けていけば、真心のある教え子が、自分のDNAを受け継いでくれる。そうやって自分の考えの種というものは、どんどん拡散されていくのだ。

 

 

 

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