思考力

バケツから宝が溢れ出す瞬間

とりあえず「21日間」続いた。人間の行動が習慣化する為には「21〜66日間」かかると言われている。明確な根拠はないが、とりあえず数値化されていると「信頼感」と「安心感」が増す。今日が、1月20日であり、このBlogは大晦日に始まったので、21日間達成だ。悔やまれるのは、正月三が日に1日だけ書かなかった日があることだが、あと3日間書き遂げれば、文句なく3週間達成だ。

私の英語の師である一人の先生から学んだことなのだが、リスニングの「バケツの理論」という考え方が、とても印象に残っている。まず、リスニングの勉強を始めるにあたって、初日はヤル気満々でCDなどをセットして始めたとしても、最初から聴き取れるはずもなく(聴き取れないから練習しているというのに!)、それで気分がめげてしまう。そして、「3日坊主」という誰が言い始めたのかわからないが、素晴らしい単語を、大多数の英語学習者が体現してくれる。確かに気持ちは分からなくもない。10間続けば良い方で、たいていの人は1週間と継続できない。人間の意思なんて、所詮そんなものだ。これは、脳科学的にも証明されていることで、人間の脳は、変化することを恐れるように出来上がっているのだ。納豆を最初に食べた人間は、尋常ではない「勇気」が必要だったはずだし、得体の知れない「フグ」を食べようなんてユウキを持ったら、毒を食らって三途の川をトボトボ歩くことになる。棺桶の中では、美味しかったという思い出くらいは、持って逝ってほしいものだ。

英語のリスニング教材が充実している中、リスニング学習を開始して1ヶ月も経てば、リスニング学習を始めようとしたことすら記憶のどこかに飛んでいて、リーディングの文法問題で、日本人特有の「ひっくり返して訳す」という解法を貫いている訳だから、「聴こえた順」に理解しなければならないリスニングで、大きく失点することは免れない。先日の共通テストのリスニングも、放送は一回になっている問題が増えてきているが、リスニング対策ができないから、自分のワガママで「ちょっと待った」と言って再生を中断することなどはできない。だから、リスニングであっても「知らぬが仏」では済まされないのである。

ここで、「習慣66日間」と「バケツの理論」がリンクする。私の英語の師は、結果が出るまで「2ヶ月我慢する」ということを教えてくれた。2ヶ月。66日間で物事が習慣化するという期間とほぼ同じだ。ここで重要になってくるのが、1日でも、三日坊主でも、59日間であっても結果は一緒。全く聴こえないままで終わる。ただ、60日目以降は、バケツから水が溢れ出すように英語が聴こえてくるという、なんとも「やる気」が出る理論であった。もちろん、その「DNA」は、自分の授業中にも受け継いでもらいたいので、自分の教え子たちにも確実に伝えるのだが、ほとんどの者が挫折する。だいたい1ヶ月後に「バケツの理論」の確認をしたところで、その話すらスッカリ忘れている。ただ、ここで着目すべきは、人間の意思の弱さや、続かなかった者の数の多さではなく、やる人はやり抜いてくるという事実だ。実際にリスニングを不得手としていた生徒の最後のアンケートでは、「バケツの理論」で実際に効果が出たという回答があり、その生徒は英語を武器に入試をクリアした。もちろん、リスニング力が上がったということは、英語力の底上げにつながっている訳だから、「ひっくり返って訳す」という極めて非効率な方法からは脱却している。その生徒の志望校は、試験終了後、試験問題の解答を配布するという、入学してからのことを考えた素晴らしい高校だったので、自分の採点を明確にすることができ、その生徒の英語の結果は、たった1問しかエラーがないという、入試本番の強いプレッシャーを乗り越えた「本物の英語力」で合格を勝ち取った。

超一流の人は、生まれ持った才能という重要な鍵も持ち合わせているが、やはり、地味な努力をしてプラチナレベルに到達している。100人の生徒に「バケツの理論」を教えたところで、2ヶ月後まで続けられる者は、皆無に等しい。だが、2〜3人はやり遂げるのも、また事実。最難関校に合格する者は、あるキッカケを与えてもらったら、それをチャンスだと思って、コツコツとした努力を怠ることはない。そして、自分の力が蓄えられているかは分からずとも、やはり理想とする自分の未来の姿を実現する姿勢を貫く。するとある時、バケツから水が溢れるかの如く、自分への恩恵が降り注がれてくる。「1週間で聴き取れるリスニングのトリセツ」のような類の本が、ズラリと書店に並んでいるのを見かけると、イライラしつつも手にとって見てしまう。何か特別なテクニックでもあるのかと期待しているのだろうか。ラクをしたいというのも人間の本能であるのなら、やはり自分のバケツに水が貯まらなくなってきている証。自分の生徒たちに「バケツの理論」を紹介した責任があるのだから「短期間英語制覇」関係の書籍を批判し、正統派な努力の先にある自分のあるべき姿を想像し、その形を創造すべきだ。そうすることによってこそ、自分自身に対して、最高の贈り物を届け、その贈り物を他者に“GIVE”したいという気持ちに繋がる。

本当に手に入れるべき未来の自分が、今日明日で手に入るはずはない。お昼に、カツ丼を食べて満腹になった自分を追い求めたいなら、あと数時間後のランチタイムに想いを馳せておけばいいのだ。

 

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