思考力

ショートボブと眼鏡とラッパズボン

 

はしがき

お届けしたカバンは未完成です、と聞いたら驚かれるでしょうか。

私達がお作りするのは80%まで、残りの20%はお客様に使っていただく事によって仕上げられるのです。カバンは使い手がいなければ、単なる物に過ぎません。手で触れ、使われて初めて生きてきます。

上記の文章は、私が愛用している、「HERZ」というカバンのメッセージです。この講座では、私が最高級に創り上げた完全オリジナルテキストを使用します。ただ、未完成状態です。このテキストを完成させる為には、受講生の努力が不可欠です。詰まるところ、どんなに素晴らしい読解方法も、文法問題を手品のように解ける技術を習得する為にも、「単語力」が無ければ成立しません。

この講座では、『PRACTICE❸』イディオム[Level A]を素材にして、基本動詞と前置詞・副詞の組み合わせ方をアレンジし、単語を「和訳」から暗記するのではなく、思考力を伴った「イメージ」で理解することで授業を進めていきます。「丸暗記」は、勉強ではなく苦行です。「思考力」は、勉強を超えた想像力です。忘れることに恐怖を感じるのであれば、忘れないように「工夫」をすればいいだけの話です。

イディオム[Level A・B]共に、知っている単語が連なると未知の単語に出会ってしまったかのような錯覚に陥ります。でも、英文法は常に一定であることと同様、英単語そのものにも一定のルールとパターンがあり、それらを習得すれば、「忘却」と言う名のアリ地獄から抜け出せるだけではなく、文と文の前後関係に関わらず、未知の単語や熟語でさえも「類推する」ことができるようになります。

独力で、市販の単語集・熟語集をやったとしたら、半年かけても半分も記憶できないでしょう。さらに、他教科との時間的な兼ね合いや、入試までのプレッシャーで、焦りばかりが先行してしまうでしょう。

逆を考えてみてください。夏特訓中に、どんな高校でも通用する高い語彙力を獲得できたのならこの上ないアドバンテージになると思いませんか?この講座を通して学習を進めれば、1ヶ月以内にそれを可能にさせます。練りに練ったテキストです。授業を受けたら、指示通りに復習してください。ボールペンを2本使いきった頃には、アタマの中は英語のイメージでいっぱいになります。

それでは、さっそく始めましょう。

選んでくださった皆さんに出来る限り永く使って欲しいからHERZの鞄はとにかく「丈夫であること」を大切に作っています。

HERZホームページより

 

昨年度のオリジナル講座テキストの“はしがき”。まさか、1年後に起業しているなんて、つゆとも思っていない。世界規模で考えても、1年後の残暑極まれりの日に、自分の周りにマスクパーソンが溢れていて、自分までマスクを装着しているなどと思っているわけない。そう考えると、私、1人の人生の変化など、ほんの微々たる消えても分からない雪のカケラ以下。ただ、世界規模の雪のカケラが、猛吹雪となって、雪崩現象。視えない「新型コロナウィルス」の脅威は、世界規模の数の人生を変えた。

人生を、時間という観点で考えれば、寿命が縮む思いの人々が溢れたように思えるが、私の場合は、年度の変わり目の卒業の季節に、ピラミッド型の檻から見事に脱出し、希望に輝く新たな人生につながった。今、振り返ると、ウィルスが蔓延しようがしまいが、あのまま、薄暗く真っ黒な檻の中では、気力が先か、体力が先かの「消滅鬼ごっこ」をしていただろう。少なくとも、先進国の中で、完全に遅れをとっていた、日本の紙と鉛筆の教育形態を、未だに続けている組織に属していないことに感謝せざるを得ない。遠隔教育など、将来の話だと呑気に構えていた日本の教育状況が、コロナ禍で叩き起こされ、一気に教育業界のスピードが上がり、一気に前倒しになって、パソコン・タブレット端末の不足で悲鳴を上げていることにも、檻の番人達は、気づかないようだ。

だが、どんな組織であれ、教え子からの期待に応える為の努力は、活力となる。テキスト作成には、特段、熱中する。苦にならないどころか、気づくと朝陽が降り注いでる日が連日あって、行き帰りの電車が布団のような状況でも、楽しいという気分を通り超し、アドレナリンが大分泌し、興奮して法悦感を求めている。挙げ句の果てには、テキスト完成と同時に気が抜けて、大量に食べた物が、口から逆噴射する始末。ここまで来ると、教え子たちの為ではなく、自虐行為なのか自慰行為なのかを選ぶべきなのだろう。

この講座は、『右脳を鍛えるハイレベル英単熟語』と命名し、表紙・裏表紙ともに手描きで、『君の名は。』の名シーンを筆で描くという凝りよう。ただ、連日のタイピングで、右手が鈍り、締切日も迫っていて、微妙な絵になってしまった。それもまた一興。当初、1ヶ月の予定だったこの講座は、夏期講習を挟んで、約半年かかった。これも、熱意故の結果。そして、このような特殊な講座が長生きできたのは、他ならぬCoreなファンがいたおかげだった。80分の授業で、1時間も人生論を語っていた日は、「道徳の授業みたいでした」という感想に笑い、最後の授業アンケートでは、ほとんどの人から、「少し話が脱線しすぎです」という授業改善点のご指摘をいただいた。

感性が高く、初対面の時から、何か光るセンスを感じていた美術部の子は、いつも授業中に吹き出してしまい、笑いをこらえるのが大変だったらしい。本当に、私の授業を心から楽しんでくれた。志望校だった私立高校は、テスト後に解答を渡す変わったシステムで、ミスしたところを質問に来た。ただの凡ミス。「他にどこを間違えたの」と訊くと、「この1問だけです」という回答だった。100%で卒業するよりも、課題を残しつつ、良い人間になってもらいたい。その素質は、十分溢れて眩しいくらいだった。

マスクをしながら、合格おめでとう。“ショートボブで、眼鏡かけて、ラッパズボンの僕のファン”と呼ばれていた素敵な教え子さんへ。

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