思考力

海の中の方程式

会社員を辞めて一年が経過し、自由であることを、半ば「自慢げ」に書き続けている。ただ、やはり精神的に完全に解放されているというわけでもないようで、目が覚めていても、何やら眠気が取れず、気づかぬ間に眠りに落ち、浅き夢の中で再会した「愛犬」を抱き締めると、それは現実世界では毛布だった。「春眠暁を覚えず」。普通の人でも、眠気が取れない季節に、眠剤を常時服用している私にとっては、なかなか面倒臭い季節でもある。

ただ、毎朝毎朝、ブログを書き続けている自分には誇りを持っている。集中力をアップさせるためのBGMをかけて、前頭葉を活性化させる。その時に飲む淹れたてのコーヒーは、どんな飲み物にも替え難い。風呂上がりのビール、高級料理に出される赤ワイン、真夏のスポーツドリンク。どれも魅力的だが、今の自分にとっての最高のドリンクは、やはり自分で淹れた朝のコーヒーだ。

ただ、副腎から分泌されるホルモン分泌は、中年男性であっても大きく乱れるものなのか、全く疲れが取れない。暖かな春の日差しを浴びていると、メラトニンで脳が覚醒されるどころか、どんどん眠くなり、お昼過ぎの恒例の「しゃぶしゃぶ」を平らげたあたりでは、もう睡魔に圧倒されている。こうなってくると、いくらヒーリングミュージックをかけて眠ろうとしたところで、全くの「焼け石に水」であり、お昼に休ませていただいたという理由なのだろうが、勤勉な私の脳はリラックスして夢の中に誘おうとしてくれない。

今、この記事を書いているのは、夜の9時。先日、渋谷のビジネスホテルから持って帰ってきた「インスタントコーヒー」があったので、それを飲んだ。いつもの朝の淹れたてのコーヒーとの味の差がわかる。簡易的な味の軽さは、時間帯によるものとは考えにくい。もうコーヒーを飲んで腹をくくり、今晩は、眠ることを諦めた。だから、この記事を9割型仕上げたら、そのまま釣竿を車に突っ込んで、夜釣りにでも行って朝陽を拝むことにしよう。もう、強制的に薬を飲んで眠ることなく、夜を明かして自然と脳のメラトニンを分泌させることとする。

A pod of dolphins swimming pass next to a surfer, Sydney Australia

Great white shark is jumped out of air to grab the surfer on the waves 3d rendering

私は、2つのことを同時にできない。いわゆる「マルチタスク」という芸当だ。脳科学的にも、マルチタスクは、作業効率を下げることが解っているが、特に私は、ひとつのことに専念し、それのみに没頭する。だから、千葉に来て、理想の波乗り兼釣り三昧の生活などできておらず、釣りをした後に、サーフィンをして仕事をするなんて妙技は、夢のまた夢だということがよくわかった。実際に千葉に移住して、釣りにハマっているときには、サーフィンはせず、サーフィンに熱が入ると、釣り熱が自然と収まる。だから、私の家の一部屋分の家賃は、断捨離するにできない、釣りとサーフィンの道具のために支払っていることとなる。

東京にいた頃、とにかく釣りにハマり込んだ。早朝覚醒の体質を利用して、夜明け前から車を走らせ、横浜や川崎で釣りをして、帰宅したら一眠りして仕事へ向かう。そんな生活をしていたら、誰だって疲れが溜まる。もちろん、私も例外ではなく、居眠り運転でトラックに突っ込んでしまい、愛車を一台潰してしまった。それにも関わらず、釣り熱は増す一方で、ありったけの金でボロボロの中古車を高値で買ってしまい、その中古車屋が悪名高い詐欺中古車屋だったと後から知るという苦い思い出がある。サーフィンもサーフィンで、やはり中毒性があるスポーツなので、いろいろなキラキラとした思い出もあるが、やはりサーフィンと仕事の両立から、身体に無理が生じ、ガソリンスタンドに突っ込んで大事故を起こし、目が覚めたら瀕死の状態で病院のベッドの上に横たわっていた。2ヶ月前にスケボーで転んで動かせなかった手首の捻挫は、今では、癒つつあるが、まだ様子を見たい。だから今晩は、サーフボードを抱えるより、釣竿を持つ方が負担は少ない。釣りに行こう。

この1年間の充電期間で、お金持ちになって、高級車や高級腕時計を買うことが、いかに意味のないことかを知った。本当の経済的な豊かさの方程式は、「収入マイナス生活費」プラス「資産×利回り」で黒字をキープできることだ。潰れるほど働くことではなく、この方程式の中で生活できる質素なスタイルを築き上げることだと知った。紳士服業界が、今や、火の車。もう、ビジカジによるネクタイが廃れたばかりではなく、スーツそのものの需要がなくなっている。私も、紳士服の量販店のアプリのスタンプを貯めることを日課としなくなった。500円クーポンは、1000円以上の買い物のみで有効という、セコイ販売戦略に乗っても、無駄な出費が増えるだけ。欲しくもない高級ハンガーが、クローゼットに目立つようになったあたりから、キッパリとそのアプリを消した。

先ほどの方程式を、できるだけ正確に活用できる生活をすれば、まさに『DIE with ZERO』。今、ベストセラーになっている「ゼロで死ね」る。死ぬ間際で、一番金持ちになっても仕方ない。私のDNAを受け継ぐ者もいないので、そのような意味では、既婚者よりも、少しは贅沢に生活できるといえる。トップサーファーが、スタイリッシュなサーフィンをしている動画があれば、やはり魅入ってしまうのがサーファーの性であり、タモ網を腰に据えて、防波堤のキワでクロダイと格闘している釣り人の動画に興奮するのもフィッシャーマンの性。AIでオススメされた動画に、やはり「釣り」と「サーフィン」が表示されているのだから、自分の心の奥底の欲求が見えてしまう。こう考えると、見事に機械に心を読み取られているわけだ。少し贅沢な暮らしは、釣りとサーフィンに費やすことになりそうだ。

ただ、最新ニュースは観ない。どうせ当たり前のライブ情報が、淡々と流れているだけ。回転寿司に行って、来る皿を全て取っていたら、食いたくもないネタで満腹になってしまう。自分の趣味の動画は、少しだけ観つつ、自己研鑽できる動画は、絶対に見逃さない。また、深刻な事態を引き起こした危険が、どのような背景なのかも知る。インド人が船長を務める船が座礁したときに、もしかしたら“Wi-Fi”を繋げるために陸地に近づいた可能性もあるとか。また、日本の船のアクシデントの原因を、他国の船長の責任に転嫁できるのか。そもそも「保険」という概念は、船乗りたちの帰船を目的として設けられた制度だが、それが正しく機能するのか。そのような下火にしてはならない問題に関しては、自分の問題として関わらせていく意識は重要。

自分の可能性は、どこから出てくるかなど、誰にもわからない。また、自分の身に、どれほどの危険が迫ってくるのかも、誰にもわからない。ただ、どんなに悲しみに近いと思っている場所であっても、どんなに優秀な学歴や経歴を持っていたとしても、自分を奮い立たせるキッカケは必ずあるはずであり、そして、そんなキッカケやチャンスが、信頼できる親や先生の存在だったら、これほど素晴らしいケースはない。仮に、自分の子供や自分の生徒が「中卒」であっても、昔は「金の卵」と言われていた可能性に満ちた存在だと愛してあげたり、可能性があることを示唆し、諭してあげられるなら、そのような子供の人生は輝かないはずはない。

見向きもされなかった静かな海に、実は大きな可能性があって、その海底には無数の宝物が埋まっているかもしれない。全く波のない海の前で、静かにひざまずいてみれば、先人たちの足跡が見えてくるかもしれない。風の音が聞こえなくても、空気を感じとることができる。たとえ、それすらできないとしても、宙に浮いて、世界を広く見渡せるかもしれない。あのとき、怒られてよかった。あのとき、怒っておけばよかった。あのとき怒ってほしかった。あのとき怒れなかった。怒りの感情から何も生まれなくても、新しい発見の中での「喜び」が見つけられればいい。

さぁ、釣竿を車に突っ込んで、海に向かって出発だ。

zombie surfer shuffling along the beach

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